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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)250号 判決 1964年5月28日

理由

一  手形保証に基づく請求について

訴外大新株式会社が昭和二七年一二月頃本件約束手形三通を、振出日はいずれも白他のままで、振出したこと、右各手形がその後振出日を被控訴人主張のごとく手形所持人により補充せられたうえ、各支払期日にその支払場所で適法に呈示されたが、いずれもその支払を拒絶されたこと、本件(二)の手形金に対し、支払期日前の昭和二八年二月三日内金一〇万円の弁済があつたことは、当事者間に争がない。

そこで、本件手形保証の成否についてみるのに、本件手形三通が甲第四ないし第六号証の約束手形の書替手形として振出されたことは、当事者間に争なく、控訴人が本件各手形の振出後その表面符箋に保証人として署名押印したことは、控訴人の自認するところであつて、これらの事実に(証拠)を合わせ考えると、控訴人の右署名押印は本件各手形の振出人である前記大新株式会社の手形債務を保証する趣旨でなされたことが明かであるから、控訴人は右振出人の大新株式会社のために本件手形保証をしたものというべきである。本件手形の各符箋の控訴人の肩書部分に「連帯保証人」なる文字が存することが前記甲第一ないし第三号証の記載により認められるけれども、右「連帯」の文字の存在は、上記の認定を妨げるものではない。

控訴人は、本件手形保証に当つて、被控訴人との間に、手形保証債務の履行を請求しない特約が成立したと主張するけれども、(供述)中右主張に沿う趣旨の発言部分は、(供述)に照して信用し難く、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

つぎに、控訴人主張の時効の抗弁についてみるのに、昭和三〇年一二月二二日被控訴人主張の即決和解が成立した際(右和解の成立は争がない)、仮に訴外波多野正彦が前記大新株式会社の代表者として、被控訴会社の代表者前田覚蔵に対し、本件手形の振出人としての債務を承認し、これにより右振出人としての主債務の時効が中断したとしても、その翌日の同年一二月二三日より三年間、手形の主債務者である右大新株式会社に対して直接時効中断の措置がとられることなく経過したことは、被控訴人の自認するところである。被控訴人は、手形保証人に対する裁判上の請求は、手形上の主債務者に対しても時効中断の効力を生ずると主張するけれども、手形債務者の義務はそれぞれ独立で、その時効も各独立に進行し完成し、したがつて、約束手形上の手形保証人について生じた時効の中断は、その生じた当該手形保証人に対してのみ効力を生ずるにすぎず、手形上の主債務者に対して時効中断の効力を有しないことは、手形法七七条一項八号、七一条の規定するところである。手形上の保証人と主債務者間に連帯関係の存することを前提とする被控訴人の右所論は、独自の見解であつて、採用できない。

そうすると、本件手形の振出人である前記大新株式会社の手形上の主債務は前記昭和三〇年一二月二三日より起算して三年の経過する昭和三三年一二月二二日限りで時効により消滅したものというべく、したがつて、右主債務に附従する控訴人の本件手形保証債務も、右主債務の消滅にともなつて消滅したものといわなければならない。被控訴人は、この点に関し、手形上の主債務が時効により消滅しても、手形保証人の債務に消長はないというけれども、右所論は主債務に対する手形保証の従属性を無視するものであつて、採用できない。

したがつて、手形保証人としての控訴人に対する第一次請求は理由がないといわければならない。

二  民法上の連帯保証に基づく請求について

被控訴人が控訴人に対する連帯保証契約上の請求につき、予備的請求としていた従来の主張を撤回して、選択的併合として請求することは、なんら差支えがないから、これを不適法とする控訴人の主張は理由がない。

本件手形の振出、振出日の補充、支払拒絶、一部弁済については、すでに認定したとおりである。

そこで、控訴人が本件手形の振出人である前記大新株式会社の手形上の債務につき、民法上の連帯保証をしたかどうかについてみるのに、控訴人の本件保証が手形行為としてなされたことは上叙のとおりであつて、控訴人が右手形行為としての保証を離れて手形外で前記振出人の債務を保証したことを認めるに足る的確な証拠はない。本件手形の表面各符箋に「連帯保証人」の文字が存することは、上叙のとおりであるけれども、これによつて、控訴人が手形保証のほかに更に民法上の連帯保証をしたものと解することはできない。

したがつて、連帯保証契約に基づく被控訴人の請求も理由がない。

三  以上の次第で、被控訴人の本訴請求はいずれも失当であつて、被控訴人の第一次請求を認容した原判決はこれを維持するに由ないから、これを取り消したうえ、被控訴人の本訴請求を棄却。

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